仏殿の御本尊「大千手十一面観世音菩薩像」

平成20年(2008)開眼の寄木造の立像仏(高さ12メートル)

 

 

第2番「紀三井寺」

 

まず白洲正子さんの「西国巡礼」から引用する。
ここの御詠歌は「ふる里をはるばるここに紀三井寺 花の都も近くなるらん」というのだが、歌はまずいが実感はよく出ている。「花の都」を歌ってあるところから、あずま人の作だというけれども、私は京都から出てきたのに、やはりやれやれという心地がする。ここにも高い階段があって、ようやく辿りついてほっとしたとたん、もうひと踏ん張りさせるところは、観音浄土には、そうたやすく行けないという仕組みなのだろう。

 

白洲正子さんは新宮から熊野三山を回って湯の峰温泉で一泊し、翌朝早く起きて、中辺路を田辺に出て、汽車に乗って湯浅を通り、紀伊三井寺までやって来たらしい。紀三井寺に着いたのは夕方で、たいそうお疲れのご様子だった。昔の西国巡礼は汽車に乗るにしても大変だったと思われる。

 

 

 

紀三井寺の朱塗りの楼門から本堂へは「結縁坂(けちえんざか)」と呼ばれる231段の急な石段が続く。坂名の由来は、江戸時代の豪商・紀伊国屋文左衛門が若かりし頃、母を背負ってこの坂を登りお参りする途中、のちに妻となる女性と出会ったというエピソードから取られたという。


結縁坂を登り始めると、境内に湧く霊泉「三井水(さんせいすい)」の一つ「清浄水(しょうじょうすい)」が崖から流れ落ちているところに着く。青岸渡寺と同じように、流れ落ちる滝への信仰心が仏教寺院を呼び寄せたのだと思う。
そこから33段の「女厄除坂」、42段の「男厄除坂」、61段の「還暦厄除坂」を一気に登りきると、本堂や多宝塔が立ち並ぶ高台に出る。

 

<参考書籍>
西国巡礼(白洲正子)講談社文芸文庫1999年
西国三十三所をあるく(JTBパブリッシング)2015年


紀三井寺の楼門(重要文化財)

正式な寺名は「紀三井山金剛宝寺護国院」

 

芭蕉の句碑があるが、疑義のある句のようだ。

見上ぐれば桜しもうて紀三井寺

 

登りきったところが本堂。本堂前の桜が今にも開きそう。

和歌山地方気象台が3月22日開花宣言とのこと。

 

放生池前の如意輪観音。

滋賀県の三井寺はご本尊が如意輪観音だが……

 

清浄水(しょうじょうすい)

三つの霊泉は他に「楊柳水」「吉祥水」。

 

左に女厄除坂、右に男厄除坂。

コロナウイルスの影響か、祝日に人出が少ない。

 

推定樹年400年の大楠(天然記念物)

奥に見えているのが多宝塔(重要文化財)

 

本堂前の広場からは和歌浦が一望できる。

砂州の左端に万葉館が見える。行きたかったが、粉河寺にも行く予定があり、今回は断念した。

若の浦に潮満ち来れば潟をなみ 葦辺をさして鶴(たづ)鳴き渡る(山部赤人)